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2010/05/25

伝統木造工法と構造計算

日経アーキテクチャーに興味深い記事が掲載されていました。

(混迷極める「石場建て論争」)という記事です。

法改正と構造計算の厳格化の流れで伝統木造工法を新築することが困難になっていることは以前から話題になっていましたが、このような論争が持ち上がっているのは知りませんでした。

そもそも、構造計算は完全無欠のものでは全くありません。構造計算で検定比が0.99だから大きい地震がきたら壊れる・・・とは誰も言いきれないのです。逆に検定比が0.5だからちょっとやそっとの大地震じゃ壊れませんよ・・・とも言えないものです。

理論武装された基準はそれなりに指針として値するものだとは思います。ただ、頭の良い人ほど陥りやすいところがありますが、、、理論に溺れてはいけないと思います。建築は人の手で作り上げるローテクなものなのです。基準は所詮基準で経験には勝てないと思っています。

個人的には、木造の構造計算基準書などを見ていて小難しい式が羅列されていると信用する気に全くなれないです。生き物ゆえにばらつきの多い「木」という存在を数式で表現することは極めて困難なことだと思いますし、はっきり言って無駄な労力とさえ感じます。とは言っても、適当に設計されては困るので先生方の御苦労の元に基準が作られているわけですが、たくさんのサンプルの下限を回帰したような数式がほとんどだと思います。この十分すぎるくらいに安全率を見込んだ基準式は、専門以外の人が見れば難しそうな式でこれを守れば安心だというふうに勘違いしてしまうと思います。構造計算の付加価値はこの「ブラックボックス」部分にあると言っても過言ではないでしょう。

 

法改正によってこのブラックボックスに従わなければならなくなってしまった被害者が・・・、この記事に載っている伝統木造を長年造り続けてきている宮大工です。

宮大工は先人の伝統木造工法の技を継承してきています。歴史的にこれまで発生した大地震も経験して倒壊していない木造建築を造ってきています。ぼくは小さい頃大工になりたかったので憧れの存在でもあります。ぼくはいま構造設計のプロではありますが、もし宮大工に構造計算の矛盾を指摘されたら素直に聞き入れますね(笑)。構造計算に無理がある点もよく承知しているからです。ただ、いまの建築士法の制度だと何かあったときの責任が取れないので基準通りに設計しているというのが本音です。

構造計算は今はコンピューターが必要不可欠のためゼロ剛性を扱うケースにとても脆弱なツールです。「柱脚は固定しない」とか「滑らせる」とかはコンピューターが計算するうえでとても苦手な分野なのです。復元力特性などを強制的に設定してそのうえでしか応答しない計算結果は作れますが、おそらく木造でそこまでやれる設計者はほとんどいないでしょうし、ソフト会社もそんな面倒なオプションつけないでしょう(費用対効果の問題があると思います)。

構造計算理論で解決するには時間と労力がかかる問題ですが、宮大工(木下孝一 棟梁)のコメントは実に明快で素晴らしいと思いました。

 

「伝統工法は、建物に何かあれば、命も投げ出す覚悟を持つ棟梁たちによって支えられてきた」

 

心の底からしびれました。

プロ中のプロにしか言えない重い言葉に感動しました。

全くその通りで、責任の所在さえ明確にすれば何の問題もない話だと思いますが、、、こういう白黒はっきりさせる基準をこの国がつくるわけがないのですが・・・

 

国の宝ともいえる宮大工に構造計算基準を強要させるなんていうことは馬鹿げています。逆に構造計算基準が宮大工から多くを学ばなければならないのです。

この基準を議論しなければならない担当委員の教授先生方は責任もあって難しいポジションにおられるかとは思いますが、ぜひ理論武装に走らずに構造計算の脆弱性があることは認めて伝統工法の経験と技を未来に継承できるよい結果がうまれることを期待したいと思っています。